何でもあって何にもない

気づいたらアラサーに成っていた。日々あまりにパッとしなさすぎるので、折角だから色々記録してみる事に。

結婚してくれと人に頼んだ話~ワンマン結婚式~

よくわからない決断をある日してしまうということがある。

その昔、私と結婚式を挙げてくれと人に頼んだことがあった。

今もって私の戸籍は生まれたままの感じなので、籍を入れたりしたとか、真剣なプロポーズしたとかではない。本当に真剣に結婚式だけを挙げてほしいと頼んだのだ。

 

全てのはじまりは、かれこれ四年以上前、祖父がガンになったと連絡が入った。

私は祖父が大好きだったので酷くショックをうけた。さらに本人の希望で積極的な治療は行わないという判断がくだされ実質余命1〜2年みたいな感じに急になってしまった。

その日から、祖父の喜ぶ事を何かしてあげたい、なにか一つくらい祖父の願いを叶えたいという謎の焦燥にかられる日々がつづいた。

 

結婚式、それが余命宣告された祖父の心残りだと聞かされたのはそれから少したってからだった。

 

それが、家族の中で唯一私だけが叶えられる祖父の喜ぶ事だった。

我が家は三代続いた一人っ子のため祖父の孫は私しかおらず、もちろん父に兄弟もいないため他にこの願いを叶えられる人材がいなかったのだ。

よりによって結婚…。いや当然といえば当然だ。たった一人の孫が結婚もせずのらりくらりと生きている。祖父にしたら心残り以外のなにものでもない。

一人で出来る事であれば大概のことはなんとかしようという心持ちはあったものの。さすがにこれは無理……。

 

と一時は思ったものの、とりあえず結婚式というセレモニーだけ挙行するというのは可能ではなかろうか??という無茶なアイデアが私に降ってきたのだ。

祖父の余命に突き動かされた私の行動力は、よくわからないブーストがかかり、一人の男友達に白羽の矢が立つまでそう時間はかからなかった。

当時彼氏もいなければ、好きな男も居ない私ではあったが数少ない親しくしてくれる男友達の1人であり、なおかつ現状恋人も居おらず、作る意欲もない彼は最適な人材に思えた。

私と彼の間にはおよそ恋とか愛とかの類いの感情はなかったが、何故か近しい物事への価値観のお陰で仲良くやってこれていた。

 

11月のある日、それなりに長い付き合いの彼を呼びだし、私は一生のお願いだから、私と結婚式をしてくれないか?と頼んでいた。

 

今振り返っても狂気しか感じない。ある日突然結婚式のお願い。私が男ならふざけるなといって即帰りたい。

でも、彼は取り乱す事なくきちんと事情を聞いてくれたうえにまさかのOKの回答を叩き出したのだ。

 

うそやろ!?

 

頼んでおいてなんだが、私の率直な感想はこれだった。

しかし、私から嫌というほど祖父が好きという話を聞かされまくっていたりなんだりした彼は脅威的な懐の深さで新郎役にOKを出した。

 

まぁ実際に後から聞いたら、私があまりに突拍子も無い事をいいだし、その割にめちゃめちゃ必死だったのを見てなんか面白そうという気持ちも少なからずあったそうだ。

なお本人は結婚などに一切関心がないタイプだそうで、最近会った際も未だに自分の人生に起こるイベントではないと思ってるとのことだった。

 

こうして、私達は結婚式を挙げることをあっという間に決めてしまった。

とわいえ、これは完全に我が家の事情なので、祖父の家からの最寄りの挙式可能場所をピッアプし、家族の予定を調整し衣装や、当日の移動を含めたの段取りを組むのは全て私がやる事になった。

 

ワンマン結婚式だ。

自分の結婚式を完全に1人で手配、何かのコントのようだった。

季節は祖父の体調を鑑みて、暖かくなる4月と定めた。

母にだけは先に事情を話し、結婚式挙げる宣言をした。その際相手は友情出演である事も正直に話した。

 

母、爆笑

そのまま本当に結婚したらいいのに!といいながら爆笑していた。

おおらかなのか、娘のやる事に関心がないのか超笑ってた。まったくビックリされなくてこちらがビックリした。

とにかく身内だけのイベントであり、なおかつ、私としては家族の集合写真を撮るのが最終目的みたいなイベントのため、そんなに費用もかさまず、私1人でなんとか支払えそうだ!と目処がたち場所も仮押さえをした。

 

年が明けた、私は自分の誕生日に家族に結婚式の告知をするぞ!と意気込んでいた。

 

 

誕生日の2日前、祖父が死んだ。

余命1〜2年といわれていた祖父は告知から半年程で突然亡くなってしまった。

 

 

全てが無用の長物になった。

予定より2日早く田舎にかえった。

祖父の葬式が先にやって来てしまった。

葬式ではまったく涙が出なかったが、1人で東京に帰る過程でベソベソに泣いた。東京行きの新幹線であんなに泣いてるのは赤子か私だけではないだろうか?くらい泣いた。

 

そして、ワンマン結婚式の全てをキャンセルした。

バチがあたたったのかもしれない。

結婚という行為を、する気もない友達を巻き込み、祖父に見せて安心して欲しいという自分の欲求の為だけに使おうとしたから、バチがあたったのだと思った。

 

もちろん友情出演もキャンセル。

怒ったり、責めたりせず、慰めてくれた彼には今も感謝しかない。

 

今思えば、結婚式しなくて良かった。

その時は良くても、後から無駄な諍いのタネになっていたかもしれない。

思い止まって本当によかった。

死ぬ事はどうにもならないし、余命宣告も全然当てにならない。

あの時の事をふりかえると初めての身内の死を目前に動揺しまくり、なにかをしていないと不安だった自分が滑稽だなぁと思う。

別に結婚なんてしなくても、滑稽ながらも毎日生きてたらそれで良いじゃんと今は思えるようになった。